難聴
難聴
難聴についての一般的な解説は、学会のWebサイトをご覧ください。
わかりやすく、まとめられています。
「TOPICS」「聞こえのしくみ」「難聴とは?」「難聴の影響」「加齢と難聴」「加齢性難聴の機序」
「難聴の予防」についてご確認ください。

代表的な「加齢性難聴」の人が、どのような状態に置かれているかを解説させて頂きます。
加齢性難聴は気づかないうちに徐々に進行するため、最初はその難聴を自覚しづらいものです。何かをきっかけに難聴を自覚できても、それは生活の一部でしかなく、家族との日常会話に問題を感じない状況から始まります。そのため、難聴である自覚は生まれづらく、聴力検査で難聴を指摘されても、補聴器なんて自分にはまだ早い…と思うのはもっともです。
一方、耳鼻咽喉科で行う聴力検査の結果は、ご本人が感じる「聞こえづらさ」とは一致しないことがあります。聴覚中枢(脳)での老化は、これらの検査に現れない要素がありますし、生活環境や就業の有無によって同じ聴力であっても聞きづらさの自覚は異なるものです。本来、医療者は検査データにとらわれない発想が必要なのですが、「聞こえづらい」と来院された患者さんを検査結果のみで帰してしまうという現象が起きています。医療者も発展途上のことがあり、我々聴覚の専門家が学会等で啓発しています。
加齢性の難聴は個人差が大きいと言われます。それは検査所見に個人差が大きいという意味ですが、さらに奥深いものがありますので、解説します。
加齢性難聴では、外耳、中耳、内耳、聴覚神経、中枢神経(脳)のいずれも老化をきたしますが、主体は内耳障害と中枢神経(脳)で発生する機能低下です。加齢性難聴によって言葉の聴き取りが低下する原因が、内耳にあるのか脳にあるのか、区別することは簡単ではありません。「音は聞こえても言葉が聴き取れない」と言われることは多いのですが、内耳の障害だけでも起こりますので、中枢神経(脳)が原因と決めつけてはいけません。一方、中枢神経(脳)の要素が大きい聴覚情報処理障害(APD/LiD)1)の一部に補聴器が有効であることを考えると、どんな難聴に対しても、生活で聴き取りに困っているのでしたら、とりあえず補聴器を「試聴する」価値はありそうです。ただし、軽度の難聴ほど、補聴器の調整は繊細でないと満足されません。それは静かな所では会話に困らないので、補聴器フィッティングのレベルが高い施設でないと脱落させてしまうことが多い現状です。
加齢性難聴では、音声の周波数分解能と時間分解能の低下が挙げられます。周波数分解能の低下によって、「おじいさん」と「おにいさん」を聞き間違えます。高音域の聴力低下と中枢神経(脳)での衰えが関係しています。これによって言葉の聞き間違いをきたしますが、前後の文脈から読み取れることも多いものです。一方、時間分解能の低下は「おじいさん」と「おじさん」を聞き間違えます。テレビのドラマなど、不明瞭で早口な音声に対して聴き取りづらくなります。これらの現象によって日常生活に不自由をきたすかというと、そうとは限りません。例えば、テレビは音量を上げるか字幕表示を活用すれば困りません。聞きづらいことがあっても、難聴者自身の生活に支障が無ければ、それを改善しようという気持ちにはならないことは共感できます。
軽度の加齢性難聴では、聴覚中枢(脳)の代償機能が日常生活を補っている可能性を知っておくと、さらに理解しやすくなります。
その一つは、耳鳴り診療をきっかけに研究が進んだ「感度を上げる方向に働く聴覚中枢での可塑性2)」です。音楽を聴く時、周囲がうるさい環境と静かな環境では、同じ音量であっても同じ音量とは思えない現象が発生します。環境音の大きさに応じて、感度を変えて対象を聴きやすくしており「聴覚のオートゲインコントロール」と説明されます。難聴状態は、このオートゲインコントロールによって感度が上がったまま、可塑性が聴覚中枢での変化をもたらしていきます。可塑性による変化は、可逆的なレベルであれば良いのですが、高齢者の補聴器対応では数ヶ月以上経過しても大きな音は抑えざるを得ないことは多く、不可逆的な変性が推測できます。補聴器を初めて装用するとうるさく感じるのは、この現象によるものと考えて矛盾しません。この聴覚中枢での変化が、聴覚域値3)を少しでも超えた音声に対して、聴き取りを改善している可能性があります。つまり、小さい音は聞こえませんが、ぎりぎり聞こえる音量でしたら、脳が感度を上げているため聴き取りやすくなっているということです。ところが、あまり歳を重ねてから補聴器を着けようとした場合、脳が感度を上げたまま下がらない変化を起こしていますので、いつまで経っても理想的なフィッティングに持っていけない現象が起こります。
長年活用してきた高次中枢の機能は、歳を重ねても働いていることは多いものです。
その一つは視聴覚情報の統合です。言葉は音声だけで聞き取っているわけではなく、視覚情報も言葉の認識を助けています。
それを証明する一つが、マガーク効果4)です。顔の映し出された人が発声する音声を間違えてしまう錯覚現象です。実際に出力される音声は「ば」で、動画の口は「が」の動きです。すると、視覚情報に引っぱられ「が」や「あ」に聞こえるのです。この機能のおかげで、騒音下でも聴き取りやすくなります。このマガーク効果をAPD/LiD1)の検査に活用できないか、当院で検証を行っています。多くの高齢者にこの錯覚現象は成り立っていますので、実際、言葉を聴き取る力はおちていても、この機能は有効であると考えられ、対面して口元を見せながら話しかける価値は高いというわけです。
加齢性難聴における心理的側面として、加齢を受け入れたくない思いと、加齢によるあきらめの気持ちは同居しているようです。また、難聴によって会話に加わることがおっくうになると、コミュニケーション不足が疎外感や孤立感を生みます。視覚障害者には起きづらい被害妄想的発想にも陥りやすくなります。これは、中途半端に聞こえる情報に視覚情報が加わることで、想像力豊かに思い巡らしてしまうからです。
加齢性難聴の方と接する時には、このような背景を知っておくと役立つと思います。
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